瞬く穴場に

瞬く穴場に

瞬く穴場に  はるけき野邉を、分け入り給ふより、いと、 物あはれなり。秋の花、みな衰へつつ、浅茅 が原も、かれがれなる蟲の音に、松風すごく 吹(き)あはせて、そのこととも、聞きわかれ ぬ程に、ものの音ども、たえだえ聞えた …

百年の計、河清を俟つ

百年の計、河清を俟つ

百年の計、河清を俟つ(Tom Petty & Karl Marx) 「市は平穏であった。追剥もなく、強盗もなく、酔っぱらいのけんかさえもなかった。夜間は、武装巡察隊が静まりかえった街通りを巡羅し、街角では兵士と …

有楽町の弥勒(みろく)

有楽町の弥勒(みろく)

有楽町の弥勒(みろく)  今月もタルホに親しむ。『一千一秒物語』から17年後の1940年11月、彼は『弥勒』を発表する。日中戦争に入って3年が経ち、太平洋戦争は1年後に迫るという、戦時である。  初めて読んだ時、私はそう …

星月夜のコスモローグ

星月夜のコスモローグ

星月夜のコスモローグ  この星月夜は、渦を巻くゴッホの絵画ではありません。1923年1月、関東大震災の年に稲垣足穂が発表した著名な作品に因んだものです。そこから一部引用しましょう。 星でパンをこしらえた話  夜更けの町の …

LPサンドウィッチ・ドットコム 

LPサンドウィッチ・ドットコム 

LPサンドウィッチ・ドットコム ――『空想サンドウィッチュリー』にうたれて―― 綺麗なキッチン、母と息子は思わず立ちすくんだ。誰かが忍び込み、音楽LPのサンドウィッチを仕込んでいるようだ。サクサクと、包丁もリズムを刻んで …

初めて宇宙に手が届いたころ

初めて宇宙に手が届いたころ

初めて宇宙に手が届いたころ  その夜、僕は怖かった。なす術もなく、答えも見つからず、恐ろしかった。    存在、生命、運動の源であり、    あらゆる方向に向かって    天、地、冥界にあると言われるすべてのものへとひろ …

22, A Million の電子

22, A Million の電子

22, A Million の電子  ボン・イヴェール(Bon Iver)。オルタナティヴ・フォークにも分類されるアメリカのグループに、最初に出会ったのは2012年の初め。そのころパリにいて、情報は日本経由で入手、モンパ …

老子の説法

老子の説法

老子の説法  鼠が走る。猫が追いかける。前には行き止まりの高い壁がある。追い詰められ、突然居直った鼠が、それまで密かに隠し持った、伝家の宝刀もさながら、鋭い牙をむく。窮鼠、猫を食む・・・・数え切れない人間たちがその顛末を …

はしに棲むもの

はしに棲むもの

はしに棲むもの  私たちは遠い。歩けばほんの僅かに隔たるばかりのこの橋の袂からも、長く、気怠く、見捨てられてきた。  取り巻く大気はやるせなくも、藪から炙り出された蛇のように蜷局(とぐろ)を巻く。  ボクらの住まいは代々 …

セザンヌの暴力

セザンヌの暴力

セザンヌの暴力 「山そのものがあちらから、自らを画家によって見られるようにするのであり、この山に向かって画家はその眼差しで問いかけるのである。」 (メルロ=ポンティ『眼と精神』 1960)  その山とはおそらくサント・ヴ …

ベンガルの虎

ベンガルの虎

ベンガルの虎  前回の〈一路多彩〉では、冥界の使者、魑魅と魍魎が訪ねた千本の迷宮に、一本の墓標が立っていた。今月はそこに刻まれた亡き人の名を偲び、かつて彼の立った紅いテント劇場を再現の舞台に、極私的な縁起を巡らせる。(極 …

千本の迷宮

千本の迷宮

千本の迷宮 〈千本桜〉ではなくて「千本通」 Dunkel ist das Leben, ist der Tod  京都の市街地を南北に貫く千本通。赤のル・プチメックからは、西へ3つ目の信号でこの千本と交差する。お店の前の …

エチカの立ち読みから

エチカの立ち読みから

エチカの立ち読みから  学生のころ、心惹かれながらもいまだ手つかずの哲学者に、17世紀オランダのスピノザがいた。  西洋の哲学に向かい始めて間もなく、それぞれの学説を問う前に、その叙述の在り方に度肝を抜かれた著作あるいは …

ニルヴァーナin LP, not in CD

ニルヴァーナin LP, not in CD

ニルヴァーナin LP, not in CD  こんにちは、R.E.M.のマイケル・スタイプです。アメリカのロックバンド、もう解散したけど、ここのコラム書いてる人がけっこう僕らのファンで、90年代の初めからアルバムは全部 …

フォンタイチェンへ

フォンタイチェンへ

フォンタイチェンへ 「フォンタイチェンは美しく賢い娘で、そろそろ嫁に行く年頃になりました。父さんは娘を遠くへ嫁に行かせると言いますが、母さんは娘があまり遠くないところへ行って欲しいというのです。父さんは金銀財宝が欲しいた …

セリーヌの転々から点々

セリーヌの転々から点々

セリーヌの転々から点々 - 無惨の果ての夜の沈黙と静寂の喧騒をめぐって -  フランス語の勉強を始めたころ、1970年代、文字を拾い集める私の目前から胸中へと、足繁く往来を続けたのは、ジュネ、アルトー、ルーセル、セリーヌ …

をみなのみちは巴里めざす

をみなのみちは巴里めざす

をみなのみちは巴里めざす Le chemin de femme a mené à Paris 去年の夏、神戸に向かう白昼の新快速、座席で私は与謝野晶子の歌集(岩波文庫)を読んだ。大阪から尼崎も過ぎたころ、『佐保姫』(19 …

西方天国

西方天国

西方天国    フランス、ノルマンディー地方。百年戦争の主戦場であり、第二次大戦でも有名な上陸作戦の舞台となる。人気のない海岸線に、一本の灯台が建つ。数々の戦闘を顧みて、変わらぬ兵(つわもの)どもが目蓋の奥底を照らし出す …

修羅火宅の楽土

修羅火宅の楽土

修羅火宅の楽土  4月と6月、東京と広島で、新著『迷宮の飛翔』の挿画をめぐる3回のトークイベントにのぞんだ。絵の作者はこの世にいるのだが、今でも壁の向こうに暮らしている。隔てる壁は部厚くて、たとえ震災があっても容易に突き …

手書き 手探り 手繰り寄せ

手書き 手探り 手繰り寄せ

手書き 手探り 手繰り寄せ 原稿書き。人生の核心を貫き、生活の辺境へと連れ去ってくれる創作では、「膨大な」手書きを続ける。出版社に渡す時点ではデジタルだから、そこにたどりつくまでのノート作り、付箋のメモ書き、それに加えて …